PROLOGUE

- 序章 -

なにかの縁によって,
私は山梨県河口湖町にあるkagelow mt fuji hostel kawaguchikoで働くことになった。

最初のゲストはどこの国の人だっただろうか。フランス人の仲睦まじいカップルだったか、それともタイからの陽気な団体客か。はては名前も知らない国の孤独なバックパッカーだったのか。

正直に話そう。まったく覚えてない。見当もつかない。
それもそのはず、Kagelowにはオープンから約1年で計42カ国約1万人のバックパッカーが訪れた。ちなみに河口湖町の人口は約2万6000人程である。

この町の何がそんなにも魅力的で多くの外国人観光客がこの町を訪れるのだろう。

ところで Kagelowで始まる朝が好きだった。朝8時に起床し、事務作業を片手間に終わらせ、Sigur Rosを聴きながら、思い思いに朝支度をはじめる様々な国の人たちを眺めるそんな朝。そしてそんな彼らを送り出す日々。

相反する文化、慣習、言語、時間が緩やかにせめぎ合い混ざり合い、見事に調和していて。
そんな優しい時間がkagelowには流れていた。
なんて贅沢な時間を彼らと共有していたんだろう。と私が気付くのは、悲しいかな、旅に出た後なのだが。

ゲストが紡ぐ河口湖町の姿美しく雄大で、それでいてどこか牧歌的な雰囲気に満ちていて。
そんな彼らの話を聞いて私は改めて実感するのだ。河口湖って素敵なところなんだな。と。

日本という国、日本人に関しても同じことが言える。
私は彼らからたくさんの美しい日本の名所を教えてもらったし、心温まるストーリーを聞かされもした。

それは例えば、私がまだ行ったことのない日本の神社仏閣の話だったり、電車が時間通りに来ることへの驚きだったり、失くしたパスポートが見つかった話だったり。

日本人からしたら、取るに足らないささいな出来事ばかりなのだが、彼らにとってはこの国で起こるすべての出来事が新鮮で驚きに満ちたものであるのだ。

私はそんな彼らが紡ぐ物語に静かに耳を傾ける。
日本という国を日本人という人種を彼らから学び、彼らが切り取ったその瞬間、その風景に、日本の美しさ、日本人の精神性を色濃く見て、私は嬉しく思うのだ。

私が、 Kagelowを訪れた彼らの中に日本という国を、日本人の精神性を見たのと同じように、私が旅の最中に出会う人々は私の語るその言葉に、私の黒い瞳に、彼らの国を、彼らの精神性をそこに見出すのであろうか。

そんなことを考えながら私は旅を続けている。
あぁ、今日も想いの詰まったバックパックは重い。しかし足取りは軽やか、視界も良好。Kagelowで引き継いだこのバックパックを背負って今日も大地を踏みしめる。

小林潤
Jun kobayashi

1992,08,31 千葉県船橋市生まれ
明治大学法学部
趣味:酒
好きな食べ物:さくらんぼと親子丼
好きな女:長澤まさみ
座右の銘:人生一生モラトリアム