EPISODE 8

- フィンランド編1 -

我が家のサンタクロースはコーヒーが好きだった。

クリスマスの前日の夜、クリスマスイブの夜ということになるのだけれど、
我が家ではこの時期世界を駆けて周る忙しいサンタクロースのために
熱いコーヒーを用意しておいたものだった。

原産地にこだわった豆を一から挽いて淹れるような
ちゃんとしたコーヒーなんかではなく、
スーパーで買った安物のインスタントコーヒーだったと思う。

というのはうちの親が豆を挽いている姿を見たことがないから
というのが理由なのだが、とにかくそのコーヒーを我が家の二階へと登る階段の出窓に、
夜寝る前そっと置いておくのだった。

そうして、期待に胸を膨らましたまま眠りにつき、 朝目が覚めると、
嬉々とした表情で父と母のもとに駆けつけるのだ。
「プレゼントあったよ!って」

そして二人に促されるまま昨夜淹れたコーヒーを確認しに行くと、
そのコーヒーが何者かによって飲み干されてるのに気がついて、
また大喜びするのだ。

我ながら可愛らしい子どもだったと思う。

ところで、11月の初旬、私はフィンランドの首都ヘルシンキに滞在していた。

サンクトペテルブルクからミニバスに乗ってヘルシンキを目指し、
国境審査でロシア人職員と一悶着起こしたあと、
人生で初めてとなるヨーロッパの国に上陸したのだった。

目眩がするような物価の高さと寒さに目をつむれば
(それは限りなく無理に等しいことなのだが)英語はよく通じ、
人は好意的で、街並みはシンプルかつ機能的でとても過ごしやすい街である。

フィンランド発祥と言われているサウナで
地元民とビールを飲みながら人生について語らい、
カンピ礼拝堂の近くにあるヴェトナム料理屋の主人と仲良くなって
フォーを奢ってもらったりと、お金がないなりにわりと楽しい時間を過ごしていた。

が、しかし北欧に対する漠然とした憧れみたいなものはあったものの、
フィンランドという国で特別したいことがあったわけではないから、
ダラダラと時間を浪費する日が3日ほど続いた。

オーロラは見たいけど、
凍え死ぬ程の外気に放り出されるぐらいなら サウナで干からびたほうがましだし、
北極圏にある国立公園に行くなら移動費も宿泊費も洒落にならないほどかかる。

さてどうしたものか。

そんな煮え切らない態度の私を見かねて、
先のヴェトナム料理屋の主人が教えてくれたのがサンタクロース村の存在である。

彼曰くロヴァニエミという町にはサンタクロース村があるらしく、
正真正銘本物のサンタクロースがそこで働いているらしい。

正直少し気にはなったものの、男一人でサンタクロースに会いにいっても…
とかそんなミーハーな旅行者にはなりたくない…
とか思って行くのを躊躇していたのだが、
他にさしあたりやることもないので重い腰を上げて
一路サンタクロース村へと向かうことにしたわけである。

(先に言っておくと、大の大人が年甲斐もなくはしゃいでしまう程
サンタクロース村は予想以上にサンタクロース村で
本物のサンタクロースは何よりも増してサンタクロースだった。)

小林潤
Jun kobayashi

1992,08,31 千葉県船橋市生まれ
明治大学法学部
趣味:酒
好きな食べ物:さくらんぼと親子丼
好きな女:長澤まさみ
座右の銘:人生一生モラトリアム