EPISODE 7

- ロシア編3 -

モスクワの冬は暗い。
一週間の滞在中、太陽をまともに拝めた日は一日もなく、
モスクワの街は毎日厚い雲に覆われていた。

人間、陽の光を浴びることが出来ないというのはとても深刻な問題で、
精神的にとてもよろしくない。

それに加えて、モスクワの人々はかなり控えめに言っても
優しくないのだからかなり気が滅入る。

年齢確認が厳しいレストランのウェイター、
トレチャコフ美術館の受付のおばさん、レニングラード駅の窓口の人。

皆が皆、無愛想であり、マニュアルを遵守し例外を認めない。

しかしそんなモスクワでも、素敵な出会いに恵まれた。

ひょんなことからモスクワの大学に通うマリアとサワという
若いカップルの家にお世話になることになったのだ。

19歳とは思えない芯の強さと優しさを持ち合わせたマリア、
そんなマリアにべったりなサワ。

通う大学こそ違うものの、一緒にジムに行き一緒に勉強し、
一緒に作ったご飯を楽しそうに食べる。

あーでもない、こーでもないと親密な言い争いをしながら、
仲睦まじく料理を作る姿なんかはとても愛らしく微笑ましい。

そして時折、ふとしたように我に返っては、そこに私がいることに気づき、
二人して照れくさそうに笑ったりするのだ。

人の恋愛にとやかく口を出したり、
自分の恋愛を俯瞰して眺められるほど私は大人になったわけじゃないけれど、
十代の頃の熱っぽさとか、ある種の危うさといった
甘酸っぱい青春を思い出して単純にいいなぁって。

私は十代なら十代、二十代なら二十代といった、
その時々でしかできない恋愛の形があると思うし、
マリアとサワの二人のようにそういう恋愛の形を楽しんでいる人を見ると
胸がソワソワするほど羨ましく思う。

友達そっちのけで、何をするにも一緒。
そんな彼らの生活は彼らの年代にこそ相応しい。

と、今年25歳になる若輩者は思うのである。

二人は私がモスクワに滞在している間、勉強で忙しいのにも関わらず
貴重な時間を割いてお手製のボルシチを振舞ってくれたり、
モスクワの街を案内してくれたりもした。

あるときマリアに「なぜロシア人は無愛想で滅多に笑わないのか」
と尋ねたことがある。

彼女曰く、それはロシア人の文化であるらしい。
しかし彼らは一旦心を許すととても親切なんだとか。

確かに思い当たる節はあった。

モスクワまで向かうシベリア鉄道に乗っている最中、
彼らは唯一の外国人である私に対して、
まったく微笑みかけることもなければ挨拶を返すこともなかった。
しかしながら、旅の終盤4日目ぐらいにふとした事がきっかけで、
彼らは私に心を開いてくれた。

それからというものことあるごとにおチョコレートやピロシキといった
食べ物を大量に分け与えてくれたり、
ある時は終わりの見えないウォッカパーティーに招待してくれたりした。

滅多に笑わなかった彼らは、
旅の終わりにはとても人懐っこい笑顔を浮かべるようになっていた。

無口で無愛想なロシア人。
しかし、いったん仲良くなると人懐こい笑顔を浮かべるロシア人。

ああ、なんだかそれは冬の間、滅多に顔を出さない太陽が雲間から一瞬だけ、
本当に一瞬だけ、ピカーッと顔を出すのに似ているな、と思った。

「また戻ってこれたらいいな」

そう思うほどに、ロシアという国のことをちょっぴり好きになった自分がいた。

小林潤
Jun kobayashi

1992,08,31 千葉県船橋市生まれ
明治大学法学部
趣味:酒
好きな食べ物:さくらんぼと親子丼
好きな女:長澤まさみ
座右の銘:人生一生モラトリアム