EPISODE 5

- ロシア編1 -

イルクーツク駅に到着した。
鉛色した風は氷のように冷たく、再会を喜ぶ人々の隙間を縫うように吹き抜ける。

線路には純白に輝く雪がうっすらと積もっており、来た道を白く染め上げている。

雲ひとつない空の青と黄色と緑で彩られたカラフルな駅舎のコントラストが美しい。

10月6日の早朝のことである。

当たり前と言えば当たり前なのだが、人でごった返す駅構内のアナウンスはロシア語で、
すれ違うのは、まるで絵本から飛び出してきたような金髪碧眼の人々。

雑踏の中で足を止めると、まるで理解できない言葉が頭の中で氾濫し波となって打ち寄せる。

国境線を超えた時の変化とは違う、目に見える種類の変化がそこにあった。

駅を出て予約してあったホステルに歩いて向かうことにする。

気温はマイナス6度、木々に積もった雪が朝日を浴びてキラキラ輝いている。

10分ほど歩くと大きな橋に差し掛かった。
その大きな橋の下を流れる川はアンガラ。

揺らめく川霧の幻想的な美しさにしばしの間見惚れる。

マイナス6度の外気もしばらく歩けば慣れるもので、
火照り始めた体を包むひんやりとした空気が心地よい。

歩くこと30分ほどだろうか、予約してあったホステルに到着する。
UKロックが鳴り響く良くデザインされたホステル。
多国籍な旅人が行き交う心地良いラウンジ。
短く切り揃えた金髪をジェルでタイトに流した爽やかな青年が流暢な英語で出迎えてくれた。

正直な話、それまでロシアに抱いていたイメージは決して明るいものではなかった。
暗く陰気な街並みと親切心のかけらもない人々。そんなステレオタイプが私の頭の中にはあった。
(そのステレオタイプはある程度的を得ていたと後々身を以て知ることになる)

でも現実はまるで違っていた。

ホスピタリティに富んだホステルのスタッフは流暢な英語を操り、
マーケットに集まる人々はあれやこれやと楽しそうにおしゃべりし、
老夫婦は夕焼け色に染まる街を手を繋いで歩き、
その横では高校生ぐらいの男の子が好きな女の子にちょっかい出していたりして。

「ロシアの殺し屋恐ろしや」なんてなじられるロシア人も、ただの人だった。
日本人なんかよりもっと人間味のある人だった。
私が持っていたステレオタイプはただのステレオタイプでしかなかった。

月並みな感想だけれど、自分の目で耳で頭で感じたことは何物にも変えがたい原体験である。

写真で見ただけ、ニュースを聞いただけ。
メディアからの情報じゃわからないことがそこにはあって。

メディアの情報は一部分では正しいのかもしれないけど、
全体100あるうちの1かもしれないわけで。

自分の目で耳で頭で感じたことが
自分自身の価値観を作り上げていくんだろうなぁなんてことをしみじみ思う。

小林潤
Jun kobayashi

1992,08,31 千葉県船橋市生まれ
明治大学法学部
趣味:酒
好きな食べ物:さくらんぼと親子丼
好きな女:長澤まさみ
座右の銘:人生一生モラトリアム