EPISODE 10

- スウェーデン編 -

バルト海には冷たい湿った風が吹く。
それは、ぽつんぽつんと海上に点在する島の緑を揺らし、
けたたましい声で鳴くカモメ達を遠くに運んだ後、
無造作に伸び散らかった私の髪をなびかせる。

陽の差し込み方によって表情を変える海面を眼下に見下ろしながら私は、
スウェーデンの首都ストックホルムに向かっていた。

サンタクロースの街ロヴァニエミを発ってから
かれこれ32時間ぐらい移動し続けている。

太陽がバルト海の彼方に沈み、
夜の帳が完全に下りた頃フェリーは港に到着した。

疲れはピークに達している。

こういう時ひとり旅は割に寂しい。
「疲れたね」なんて慰め合うパートナーもいなければ、
初めての地で頼る人もいない。

当たり前のことだが、
なにもかも自分でこなしていかなければならないのだ。

そうして慣れない路面電車とメトロを乗り継いで
予約してあったホステルに向かう。

ここで興味深い発見一つ。

フィンランドの人々がどちらかと言うと素朴で控えめな印象であったのに対し、
ストックホルムの街を闊歩する人々は
まるでファッション誌からそのまま飛び出してきたかのような
金髪碧眼の人々。

少し距離を移動するだけで
こんなにも人の様相は変わるのかと驚いた。
そしてそれと同時に切なさにも似た悲しみを覚えた。

なんで私の足はこんなに短いんだろう。
(もう少し背が高ければ女の子にモテたのになぁ!)

一瞬湧き上がった感情に速やかに蓋をして冷え切った街並みを歩く。
慰めてくれる人はいない。

坂という坂を登ってようやくホステルにチェックイン。

そのホステルは一際大きな丘の上にあった。
部屋の窓を覗くとそこには煌びやかに輝くストックホルムの新市街。
長かった1日を締めるには十分過ぎるほど美しい眺めだった。

翌朝、ぼんやりと目を覚まし、
熱々のシャワーを浴びて無理やり頭を起こした後、朝食の準備を始めた。

疲れている時こそしっかりとした朝食を取るのが私のポリシーだ。

焦げ目が少しつくぐらいに焼いたベーコンを2枚、
新鮮な卵と野菜ををふんだんに使ったオムレツ。
そこに手作りのトマトソースを添え、
カリカリに焼いたトーストと共に食べる。

大きな窓越しに北欧の白い光を浴びながら、
味覚に神経を集中させてゆっくりと食べる。

そうすると不思議なことに自然と身体に活力がみなぎってくる。
そうして昨日までの疲れなんてなかったかのように
吹き飛んでしまう。

旅をしていて至福を感じる瞬間の一つだ。

私は料理が決して得意なわけではないけれど、
その土地で育った食材を丁寧に料理してゆっくりと味わうこと。
それ以上の楽しみはないなと思っている。

ストックホルムには中世の面影をそのまま残した
ガムラスタンと呼ばれる旧市街がある。

ツルツルになるまで磨り減った石畳。
優しい明かりを灯した石造りの家々。
人々の行く末を見守るかのようにして佇む王宮。

中世の小道を右に左に、
はたまた階段を駆け上がってみるとふいに、
タイムスリップしたかのような錯覚に陥る。

美しい瞬間である。

そしてこの感動分かち合わう恋人が隣にいたらな。
と柄にもなくロマンチックな妄想に浸る。
どうやら北欧の風に当てられて人肌恋しくなっているようだ。

北欧美女と運命的な出会いを果たせますように。
と神様に3回お願いして足早にこの街を後にした。

独り身の男にはこの街は少々美し過ぎる。

小林潤
Jun kobayashi

1992,08,31 千葉県船橋市生まれ
明治大学法学部
趣味:酒
好きな食べ物:さくらんぼと親子丼
好きな女:長澤まさみ
座右の銘:人生一生モラトリアム