EPISODE 1

- モンゴル編1 -

寒空の下砂埃が舞う名もなき町を彷徨っていた。
土壁で出来た質素な家屋が肩を寄せ合うように建ち並び、
申し訳なさそうに佇むうらびれたスーパーが一軒あるだけの小さな町。
場所を尋ねようにも英語が話せるような若い人は見当たらず、
通りを歩くはデールと呼ばれる民族衣装に身を包み幼子を連れた老婆のみ。
意を決して話しかけてみるか。いや、話しかけたところでどうにもならないことは経験上知っている。
さて、困った。どうしよう。

その日のお昼前に宿を後にした私はウランバートルの北東約70kmに位置する
テレルジという名の国立公園を目指していた。
そこで観光客用ではない本物の遊牧民のゲルに泊まらせてもらうつもりだった。

見渡す限りの大草原と突き抜けるような空の下、太陽の光で目を覚まし、
夜は満点の星空のもと眠りにつく。そんな生活に憧れていたのだ。

漠然とした淡い期待を胸に秘めバスを乗り継ぐこと2時間。
そろそろ目的地に着いてもいいはずだった。
しかし一向にその気配はなく、1人2人と姿を消していく乗客たち。
バスが信号で停車してる隙を狙って、
”テレルジ”とモンゴル語で書かれたメモをドライバーに恐る恐る手渡してみた。

「"Энд байхгүй S」
理解不能である。
ただ確かなことは私が降りるべきバス停を見逃したという事実。
そしてここが終点なのであろう、半ば強制的にバスを降ろされただ呆然と立ち尽くす日本人男。

そんなわけで私は名もなき町を彷徨っていたのだ。

まーなんとかなるさ。と気楽に構え、次のバスを待つことにした。

待つこと20分ほどだろうか、
砂埃にまみれ薄茶色に汚れたバスがけたたましい音をたててやってきた。

降りてきたドライバーにすかさず先ほどのメモを差し出すと、無言で頷き、乗れとの合図。
一抹の不安をかかえながらもバスに乗り込み、大人しく発車を待つ。
待てど待てどバスが走り出す気配はない。
ドライバーのおっちゃんは外でプカプカたばこを吸いながら地元民と談笑している。

ようやくバスが走り出した頃には、太陽は西に大きく傾いていた。

そして大草原に延びる一本道ををひた走ること約1時間、ようやくテレルジ国立公園に到着した。

あたり一帯には葉を黄色く染めた美しい木々が生い茂り、その森の中を小川が縫うように流れていた。
地図によるとこの森を抜けた先に草原が広がっているらしい。
森の香りを小鳥の囀りを流るる川の美しさを五感で余すことなく味わい、道無き道を行く。

しばらく歩いていると遠くに人影が見えた。デールに身を包んだその人はモンゴル人らしいがっしりとした体に焼けた肌がよく似合う褐色の瞳をした優しそうな男性であった。

この人なら泊めてくれるに違いない!
根拠のない直感を信じ込み必死のボディランゲージで宿泊交渉。
その勢いが通じたのか、幸いにも泊まらせて頂くことになる。
よくわからない日本人男がこのあと図々しくも4日も居座ることになろうとは
第一遊牧民(仮)は思いもよらなかったであろう。

小林潤
Jun kobayashi

1992,08,31 千葉県船橋市生まれ
明治大学法学部
趣味:酒
好きな食べ物:さくらんぼと親子丼
好きな女:長澤まさみ
座右の銘:人生一生モラトリアム